
フィリピンのマニラ地区。
深夜12時に、会社が用意してくれたドライバーがホテルの前で待っていた。
出勤ではない。
フィリピン人のドライバーの実家に行く約束としていた。
ここ数カ月、休みなく働いた。通勤は専属のドライバーが用意されたが、通勤の道すがら、ドライバーの実家の話になった。
彼は働いているマニラ地区から車で片道8時間の片田舎に住んでいるらしかった。
貧しくて車は持てないから、数か月に一回に自分のバイクを走らせて帰っているらしい。
「じゃあ、今度の週末、僕をこの車で実家に連れいってくれ。僕の依頼であれば休日の車利用も許可されている。君はドライバーとして僕を連れて行けば一石二鳥じゃないか。」
ドライバーは喜んでいた。どうやら彼の娘も、叔母さんと一緒にマニラ地区に住んでいるらしく、娘も連れていいかと聞かれた。勿論、快諾し、金曜の仕事終わり、深夜12時に出発すると約束した。片道8時間かかるので、私は後部座席で寝て、朝方に実家についてもてなしてくれる計画らしい。
ホテルで準備を終えてフロント前にいくと、車はライトを灯して停まっていた。
助手席には恥ずかしそうに小学生の娘が座っていた。
人見知りそうだったので、無理に挨拶はせずに後部座席に座った。
車は静かに出発した。
私は飛行機用のU字枕を膨らませ、賑やかなマニラ街を車窓から眺めながら横になった。
しばらくすると、不意にザックの中に出国時に妻が持たせてくれたピュレグミがあったことを思い出す。
おもむろに取り出すと、助手席に座っていた娘に渡した。
彼女は最初驚いていたが、可愛いパッケージをみてお菓子だと察したのか、ふっと笑って、サンキュー、と受け取った。
入りは合格かな
髭面で不愛想な日本人に警戒していたに違いないが、悪いやつではないと伝わってくれたら嬉しい
心地よい車の振動に揺られながら、いつの間にか眠りについていた。
目が覚めると、朝方に港のような場所についていた。
ドライバーと一緒に港町の屋台街を歩く。
現地の食べ物をひとつひとつ丁寧に説明してくれる。
そして銀色に輝くジープの前に停まった。
「これは僕の兄が乗っていたジープだ。彼のこの街でジープの運転手だったが、2年前に病気で亡くなっちゃったんだ。」
彼は悲しそうな語ったが、ジープは朝日に輝いていた。
-中略-
弟がふいに僕に話しかけた。
「この街の海を見に行かないか。めっちゃ綺麗だよ。絶対また来たくなるはず!」
「行こう!」
ふたつ返事で答えた。
出発前、なんとなく、手ぶらで行こうと決断した。
スマホを家に置き、長袖のシャツに下は海パンを履き、ポケットには290ペソだけねじ込んでキャップを被った。
家の前には、ヘルメットを片手に弟がバイクを吹かせて待っていた。
バイクの後ろで、フィリピンの田舎町の絶景を堪能した。
ときどき弟は後ろを向いてタガログ語で何やら自慢げに説明している。
何を言っているかわからないが、僕は笑って、最高だな!と日本語で返した。
-中略-
無人島から返ってくると、僕は裸足に上裸で海パン一丁、右手に見たことのない南国フルーツの実という恰好だった。時計も、サンダルも、キャップも、シャツも全て出会ったフィリピン人にあげてしまった。そのお陰で、漁船に乗せてもらい、ガイドブックにはない無人島に連れてってもらい、島を一周するという不思議な体験を得た。
出会った彼らの目線を落とすものを快くあげていたらこうなった。
不思議だな。
何も持っていなかったが、喜びはしゃぎ、彼らなりのお返しをしてくるものを全て受け取った僕は、なぜか充足感に満ちていた。